ハコのん

minecraftで遊んでいます。最近はリソースパック作り。それから読書と検索メモ。

『藤原能信』を調べた理由

まさかの平安時代に興味がわく

ここ数年、日本の歴史関係の本を趣味で読み始めています。もっぱら興味があるのは『室町時代』で、武将などの人物よりも、商人とか惣(村)ついて書かれている本を探して選んで読んでいました。NHKのタイムスクープハンターの「名もなき人々の暮らしに密着!」ではないですが、特別ではない人々の営みや活動、生活の片鱗が、今日に連綿と、またはかすかに、繋がっている様を想像すると楽しいです。ロマンです!

それでですね。ここに来て『平安』時代の本を読み始めてしまいました。これは自分で、とても意外な成り行きでした。

平安時代といえば、雅とか、恋愛とか、源氏物語のイメージです。

源氏物語は奥深い物語だと思うのですが、その延長で平安時代が好きって気持ちはあまり沸きませんでした。そう思っていました!

でも興味がでたら、自分でもしっくりくるのです。室町時代平安時代も大きく分ければ同じ中世の括りですしね。たぶん興味を広げて自分的には正解だったのだと思うに至りました。雅でも恋愛でもない興味深さがそこにありました。

きっかけの一冊

そもそものきっかけは一冊の本でした。

少し前の話です。ある日、書店でビギナーズ・クラシックシリーズが置いてある棚を見ていました。このシリーズは、名前のとおりに初心者に向けて、分かりやすく古典を紹介してくれるシリーズで好意的に思っていました。

その日は本を購入する意欲が強い日で、何かないかなと、なんとなく手にとって、適当に流し読みしたら面白そうに思った本がありました。

御堂関白記藤原道長の日記(繁田信一)』という本です。その内容に驚きました。なんというか、まさか藤原道長に人間ぽさを感じ、また不憫に思う日が来るとは思いませんでした。購入決定でした。

 

  藤原道長と言えば、

この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば

これです。完全なる時代の勝利者。これ以上の印象のなかったのです。

けれどこの本を読んでいると人間味あふれる人だなぁと思いました。蘊蓄のあることが多く書かれたり、事細かいに丁寧に当時の状況を説明している・・・・・・なんてことは、まったくない!

大事な仕事なのに「誰も来なかった」と関係者にサボタージュされる強烈な出来事から本書は始まります。それも何度も!涙が出ます。

雨の日に憂鬱になり、その日の天候でテンションが変わったり、とんでもない誤字をしてしまったり、自分の都合の悪いこと(?)は書かなかったり、ある期間の日記を黒歴史としてなのか封印したり、といった公平な視点ではまったくない日記であることが解説により分かります。これが非常に愉快な気分になりました。

本文あってこそなのでしょうか、解説がとても愉快でした。それでこの著者の本をもう少し読んでみたいなと思うようになりました。

そして二冊目突入

で、ようやく読み始めることができました。

殴り合う貴族たち―平安朝裏源氏物語

殴り合う貴族たち―平安朝裏源氏物語

  • 作者: 繁田信一
  • 出版社/メーカー: 柏書房
  • 発売日: 2005/09
  • メディア: 単行本
 

 

 こちらは上の道長が詠んだとされる「この世をば わが世・・・」を書き留め、後の世に知らしめた『小右記(しょうゆうき)』という日記を元に、他の殿上人の日記を参照しながら、当時に発生した事件を紹介する主旨の本です。

本書のメインとなる『小右記』は、他の貴族からも良識ある賢人あると評価されていた人物が書いた日記です。小野宮右大臣藤原実資(ふじわらのさねすけ)、もっとも道長のことはちょっと嫌いかもな人かも。

まだ読み始めて間もないのですが、ひとことで言うなら本書はすべてが『ザ・バイオレンズ』。喧嘩・暴力・レ○プ・・・・・・洒落にならないオンパレードです。

怒りが収まらないばかりに、納め時を失った暴力が弱きを挫きます。死亡事件さえも発生します。もちろん当事者の言い分は聞けないままなので、ひとつひとつの真相には、また違う一面もあったかもしれません。けれど事実として強烈に『ザ・バイオレンス』

それでも妙に納得する、中世の心理

とはいいつつ、なんとなくしっくり来てしまうのです。それは次の本を以前読んでいて、その印象が頭の中に残っていたからだと思います。

喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)

喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)

  • 作者: 清水克行
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/02/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  こちらの本は別の著者になります。正直、この本もかなり面白い本です。こちらでは名前の通り、喧嘩をした場合、どんな理由があろうと『両成敗』を行うという法の成立についての話です。

室町時代の人は血の気が多いという話で、こちらは『看聞日記』という皇族・伏見宮貞成(ふしみのみやさだふさ)の日記資料に書かれた事件などが紹介されています。

こちらを読んでいると、現在と比較するのはナンセンスなのですが、プライドが非常に重視された社会だったように思えます。または怒りをおさめる道徳が未だ発生していない時期。名誉や自尊心を守る為には、血で血を洗う、目には目を歯に歯をそんな話です。

室町時代がそうであるならば、平安時代もまたそうであったというのは納得のいく話です。武士の時代だから血の気が多いのではなく、人の成長段階の話なのだろうなとそんなことを思いました。

藤原能信が気になったのでWikipediaで調べてみた

話がズレましたが、そんなわけで、平安時代もなかなか不思議な時代なのだなと思うに至りました。また興味深い人物がいることも分かりました。
『殴り合う貴族』の本文から引用します。

当初、二人は互いに罵り合いながら取っ組み合っていたが、しだいに兼房の方が優勢になったらしい。ついには兼房が経定を「凌礫(りょうれき)」するに至ったというのがある。(中略)これは一方的に暴行を加えることを意味する。(中略)経定の父親の中納言源道方が、その場に居合わせた大納言藤原能信(よしのぶ)に泣きついた。(中略)能信は道方の希望を容れて腰を上げた。取っ組み合う二人に近づいた彼は、手に持っていた笏(しゃく)で二人の方を打ち据え、両人を引き離したのである。
繁田信一:殴り合う貴族たち―平安朝裏源氏物語:p39)

 なんというかすごくカッコイイ!この藤原能信。それで気になってWikipediaで検索しました。

藤原能信 - Wikipedia

なるほど。彼は藤原道長の四男。そうして母は道長の側室明子。

道長は正室と側室とで、その子供達に対して出世ルートなどで大きく待遇の差を与えた人らしいです。上の御堂関白記の中にも、幼い子供に対して、正室の子と側室の子では可愛がり方さえ異なっているような記述がありました。

つまり明子の子であるということは、能信はそういう扱いを受けた人だったということです。なかなか難しい立ち位置の人だけに、上の事件の納め方はカッコイイなぁと思いました。カリスマ性がありながら、本流ではないという理由だけで不遇の身を甘んじて受ける男・・・・・・みたいな想像を。そのときまでは。

本書を読み続けていくうちに分かりました。彼もまた待ったなしの『ザ・バイオレンス』な人でした。なんだか滅茶苦茶な人でした。彼は若い頃は相当の暴れん坊だったらしいのです。そうして彼が生涯をかけて辿った道は、は藤原家の栄華を終わらせる新たな時代への布石となるのです。

 

うん。やっぱり面白い人だ。藤原能信を主人公にした小説があるようなので、チャンスがあれば読んでみたいなと思いました。藤原の栄華を終わらせた男の物語。平安時代もなかなか面白そうです。

望みしは何ぞ―王朝・優雅なる野望 (中公文庫)

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